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東京地方裁判所 平成8年(ワ)2279号 判決 1997年11月28日

原告

有限会社ベルファン

右代表者取締役

山吹實

右訴訟代理人弁護士

羽野島裕二

被告

有限会社コメットシステム

右代表者代表取締役

有地良蔵

右訴訟代理人弁護士

川﨑保孝

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金二七四九万七四八四円及びこれに対する平成八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が被告との間でツーショット、伝言ダイヤル等の電話通信システムである被告商品マルチサービスシステム(以下「本件システム」という)に関して、本件システムを構成する機器類及び基本ソフトの売買契約、右機器類設置に係る請負契約並びにソフトウエアの賃貸借契約をそれぞれ締結した上でいわゆるテレホンクラブ(以下「テレホンクラブ」という)を開業したところ、本件システムには男性会員と女性会員の電話回線がうまく接続できないなどの欠陥があったため右テレホンクラブの営業を廃止することを余儀なくされたとして、原告と被告の間の各契約のうち売買契約と請負契約の債務不履行に基づく損害賠償を被告に求める事案である。

二  争いのない事実等(証拠による場合には適宜掲記する)

1  当事者

(一) 原告代表者取締役山吹實(以下「山吹」という)は、昭和六三年一〇月から経営していた喫茶店の経営がおもわしくないことから、テレホンクラブを開業することを検討し、平成七年七月二〇日、事務室として東京新宿区<番地略>所在○○○一〇三号室(以下「原告事務室」という)を借り受けるなどしていたが、偶々雑誌で本件システムを知るようになった(甲一一、六一)。

そこで、山吹は、被告と連絡を取り、同月二三日以降、被告から本件システムの概要、収支見込み等の資料の送付及び説明を受け、本件システムを導入することを決定し、後記2(一)及び(二)記載の契約を原告の開業準備行為として締結した上、平成七年九月一日、通信システムによる情報の収集及び販売等を目的とする原告を設立した(甲六一)。

(二) 被告は、電子計算機関連機器等の販売業務を目的として昭和六三年六月二〇日に設立された有限会社である。

2  契約の締結

(一) 山吹と被告は、平成七年八月四日、原告の開業準備として次のとおり合意した(以下「本件第一契約」という)。

(1) 被告は、原告に対し、左の商品を売り渡す。

ア ホストコンピューター

RL―二四〇〇 IBM―PC七五〇 一台

イ カラーモニター 一台

ウ 音声処理ボード

NTT I―AG(二四回線) 一台

エ 基本OS

IBM―OS/2 WarpV3一式

オ 無停電電源装置 一台

(2) 被告は、平成七年九月一〇日までに原告事務室において、商品の納入設置及び接続調整作業を行う。

(3) 代金額は合計二八四万二八〇〇円とし、その内訳は左のとおりである。

ア 商品代金 二四〇万円

イ 納入設置費用 一〇万円

ウ インストール作業費用一六万円

エ 宿泊交通費 一〇万円

オ 消費税 八万二八〇〇円

(4) なお、本件第一契約に際して取り交わされた山吹から被告あての注文書(甲三の一)及び被告から山吹あての注文請書(甲三の二)の各備考欄においては、「システムの運用上発生した損害の保証は出来ません」という文言(以下「本件損害不保証特約条項」という)が記載されている。

(二) 山吹は、平成七年八月一〇日、被告との間で、原告の開業準備として左の商品を以下のとおり借り受ける旨合意した(以下「本件第二契約」という)。

ア マルチサービスシステムソフトOS/2 一式

イ ツーショットシステム 一式

ウ 伝言+アダルトボイスシステム一式

(1) 期間 平成七年九月一〇日から平成八年八月九日まで

(2) 賃料 毎月一八万五四〇〇円(消費税五四〇〇円を含む)

(三) 原告は、平成七年九月六日、被告との間で、左の商品を代金額六八万三九二〇円(消費税額一万九九二〇円を含む)で買い受ける旨合意した(以下「本件第三契約」という)。

ア プリンター 一台

イ モデム 一台

ウ 一二チャンネル回線ラインモニター 一台

エ 疑似交換機(内線用四チャンネル) 一台

オ 回線切換機 四台

カ 情報再生音源(一番組七〜八分)八式

キ ヘッドホン 四台

3  テレホンクラブの営業

原告は、平成七年九月一八日に「いちごくらぶ」という店名でテレホンクラブの仮営業を、同月二二日に本営業をそれぞれ開始し、仮営業開始以来平成七年一一月三〇日までに二一九万九〇〇〇円の売上げを得ていたが、同日、右テレホンクラブの営業を取りやめ、第一及び第三契約により買い受け又は本件第二契約により借り受けた機器及びソフトウエアからなる本件システム一式を山吹の自宅へ移転し、以後同人において右システム一式を保有している(甲六一)。

第三  当事者の主張

一  原告の主張

1  瑕疵について

(一) 原告がテレホンクラブの営業を開始した当初から、本件システムには以下のような異常(以下「本件異常作動」という)が生じていた。

(1) 本件システムにかかる電話が接続後すぐ切れる。

(2) ツーショットの相手が出そうになると切れる。

(3) ツーショットの会話の途中で相手が切らないのに切れる。

(4) ツーショットの相手を変えようとプッシュボタンを押すと相手の電話が切れたり自分の電話が切れたりする。

(5) 電話を切ってもコンピューター上では接続中になり、有料計算されたり、同じ人間がかけ直しても接続できない。

(6) 伝言を聞いている途中で切れる。

(7) 伝言を録音中に切れる。

(8) 操作途中に、この番号は使えません等の関係ないアナウンスが流れる。

(9) 新入会した後払い会員の確認のためのコールバック機能が作動しない。

(10) ノイズが出てツーショットの相手の声が聞こえない。

(二) 被告は、接続ソフトを送付したり従業員に本件システムの調整作業を行わせるなどしたが、結局本件異常作動の原因を究明し本件システムを正常に作動させることはできなかった。

2  損害について

原告が、平成七年一一月末日をもって、テレホンクラブの営業を取りやめたのは、本件システムに発生した前記1記載の本件異常作動により、女性利用者及び男性会員の数が増加せず売上げが伸び悩んだためであり、右営業取りやめにより、原告は以下の損害合計二九六九万六四八四円を被った。

(一) コンピューター機器等代金

三五二万六七二〇円

本件第一契約及び第三契約の代金額の合計

(二) 事務室・車庫賃貸料等

一三八万七四八八円

(1) 原告事務室の家賃及び管理費(月額一三万〇六〇四円)

平成七年八月から平成九年二月まで

九一万四二二八円

(2) 事務室礼金 一二万円

(3) 中途解約違約金

一三万〇六〇四円

(4) 仲介手数料 一二万円

(5) 車庫賃料(月額三万五〇〇〇円)

平成七年九月二一日から同年一二月一五日まで 一〇万二六五六円

(三) 人件費二七一万二七三三円

アルバイト女性三五名の給料合計額

(四) 求人公告費

一三一万三〇〇〇円

アルバイト女性募集のため、「てぃんくる」「ゆかい」「ビスチェ」「アクセス」「ふぇありい」「読売新聞折込」に求人公告を掲載した費用合計額

(五) 営業公告費

六九七万一八九二円

チラシ折込ティッシュペーパーの製作及び配布、ポスト投函用チラシの製作及び配布、捨て看板の製作及び設置、並びに日刊紙「スポーツ日本」、日刊紙「東京スポーツ」及び週刊誌「週刊マンガ」への会員募集公告の掲載に係る費用合計額

(六) 通信費一五一万三九七九円

日本テレコム、及び東京デジタルホンに対する通信費としての支払額合計(原告の事務上の通信費のほか、女性利用者のための電話料金を含む)

(七) 水道光熱費

五万二〇三七円

原告事務室に係る電気料金、水道料金及びガス料金

(八) 交通費 八万六三六一円

(九) 備品購入費

三万七四七四円

(一〇) 消耗品購入費

九万四八〇〇円

(一一) 逸失利益 一二〇〇万円

被告の事前説明では、本件システムにより毎月四〇〇万円の粗利が得られると試算されており、原告は少なくとも毎月一〇〇万円の純利益を第三契約による賃貸借期間である一年間の間期待できた。

3  本件損害不保証特約条項の効力について

以下のとおり、本件損害不保証特約条項は無効である。

(一) 本件第一契約の注文書の備考欄は例文であり、原告はこれに拘束される趣旨で意思表示をしたものではないから、備考欄に記載された本件損害不保証特約条項は無効である。

(二) 本件損害不保証特約条項は、その文言上、瑕疵のない正常なシステムが設置されたにもかかわらずそのシステムを運用した結果他の機器等に発生した損害を補償しないことを定めたものと解すべきであり、システムそのものに当初から存在した瑕疵により損害が発生した本件には適用がない。

(三) 原告は、コンピューターや電気機器に精通しておらず、自ら瑕疵を修補する能力を持たない一般消費者であり、このような原告に対する関係では、本件損害不保証特約条項は公平の原則、信義則に照らし無効である。

4  よって、原告は、被告に対し、売買ないし請負契約の債務不履行による損害賠償として金二九六九万六四八四円の内金二七四九万七四八四円及び訴状送達の日の翌日である平成八年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の主張

1  瑕疵の不存在について

本件システムが正常に作動しない状態が発生したことは認めるが、その詳細は知らない。

しかし、本件第一契約の対象商品たる機器類は原告への出荷前のテストでは正常に機能していたのであり、平成七年九月一〇日に原告事務室に設置した際も同様に正常に機能していたものである。したがって、右機能障害の原因は、電源装置の性能不良、電圧の微妙な違い、不法電波の影響、電話回線からのノイズ、その他の本件システム設置場所周辺の固有の事情に基づくものと推認され、被告に右障害の発生についての故意、過失は存在しない。

2  損害について

原告の主張2記載の事実のうち、(一)の金額を原告が被告に支払ったことは認めるが、その余はすべて知らない。

3  本件損害不保証特約条項の有効性について

以下のとおり、本件損害不保証特約条項は合理性を有し有効である。

(一) 本件システムは、操作に専門的知識を必要とし、かつ精密な構造から取扱いに慎重さが要求されるものであるから、取扱いが不当なことにより生じた損害は売主である被告の責任とはいい難い。

(二) 本件システムは、NTTの電話回線を利用するものであるから不具合が生じた場合には原因究明あるいは対応に困難が生じることがあり、また、公序良俗に反するテレホンクラブ等の特殊な営業に供されるものでもあるから、無用の損害の拡大を防ぐため、事前に本件損害不保証特約条項のような合意をし、損害を保証しない旨の特約を明記しておく必要があり、右特約は取引の特殊性に照らし合理的なものである。

第四  判断

一1  本件システムは以下の内容のものであり(争いがない)、その内容自体から、右システムを利用した原告のテレホンクラブの営業は、公序良俗に反することが明らかな違法なものである。

(一) 原告は、被告から購入する一台のホストコンピューター、周辺機器及び賃貸するソフトウエアにより、電話回線を介して、複数の男性利用者にツーショット、伝言及び音声再生のサービスを、複数の女性利用者にツーショット及び伝言のサービスを同時に提供することができる。

(二) 男性会員(電話番号〇三―○○○○―○○○○)

男性は、前払会員又は後払会員とならなければ、原告から前記サービスを受けられない(但し、宣伝のため最初の三〇分は無料)。

前払会員を希望する男性は、原告の前記電話番号に電話し、ホストコンピューターから会員番号の発行を受け(会員番号自動発行機能)、ホストコンピューターに自己の暗証番号を登録し、電話を切る。その後右男性は、指定された原告の銀行口座に料金を送金する。原告は、送金された金額をもとに、金五〇〇〇円で六〇分の割合により、ホストコンピューターに右男性の接続可能時間を入力する。以後、右男性は、右接続時間に限り、原告の前記電話番号に電話して原告から前記サービスを受けることができる。

後払会員を希望する男性は、原告の前記電話番号に電話し、自己の電話番号をホストコンピューターに登録し、ホストコンピューターから受付番号の発行を受け、電話を切る。その後ホストコンピューターは、右男性の電話番号に電話発信し(自動コールバック照合)、電話に出た男性から受付番号確認の後、右男性に会員番号を発行し、右男性は自己の暗証番号を登録し、電話を切る。男性は、後払会員として、原告の前記電話番号に電話して原告から前記サービスを受けることができるが、利用した時間六〇分当たり金六〇〇〇円の料金を、有料利用開始後五日以内に原告の指定銀行口座に送金しなければならない。

なお、前払会員、後払会員とも電話の通話料は各自が負担することになる。

(三) 女性利用者(電話番号〇一二〇―××―××××)

女性は無料で、前記サービスを利用できる。また、右利用にかかる電話の通話料も原告が負担することになっている(料金受信人払)。女性は、原告のチラシ公告を見た者が原告に電話する場合のほか、原告に雇用されたアルバイトのテレホンレディが原告事務所ないし自宅で、原告に電話する場合もある。

原告から前記サービスを受けようとする女性は、原告の前記電話番号に電話して、伝言ボックス番号、暗証番号を登録すれば、直ちに利用できる。

(四) ツーショットサービス

男子既存会員は、原告に電話して、自己の会員番号、暗証番号を確認後、メインメニューからツーショットサービスを選択すると、ホストコンピューターが無作為に選出した女性(原告に電話してツーショットサービスを選択している女性)と回線が繋がり会話ができる。女性利用者は、原告に電話し、メインメニューからツーショットサービスを選択すると、ホストコンピューターが無作為に選出した既存男性会員と電話で会話できる。

男性既存会員又は女性利用者は、電話が相手方に繋がるまで電話口で待機しなければならないが(待機中は有料加算されない)、相手方が気に入らなければ、電話を切らないで相手方をチェンジすることができる。

(五) 伝言サービス

男性既存会員は、原告に電話して、自己の会員番号、暗証番号を確認後、メインメニューから伝言サービスを選択して、伝言ボックス番号を登録(初回)ないし確認(二度目以降)して、伝言サービスを利用できる。女性利用者は、原告に電話し、伝言ボックス番号、暗証番号を登録ないし確認すれば、メインメニューから伝言サービスを選択して、伝言サービスを利用できる。

伝言サービスには、オープン伝言とプライベート伝言とがある。

オープン伝言は、異性の伝言メッセージが新しいものから複数録音されているものを再生して聞くことができるほか、自己のメッセージをオープン伝言に録音し、複数の異性の相手方に聞いてもらうこともできる。

プライベート伝言は、オープン伝言再生等により気に入った相手方のボックス番号を入力し、自己のメッセージを録音することができる。ホストコンピューターは、自動的に相手方のポケベル又は携帯電話に、プライベート伝言ボックスにメッセージが入ったことを連絡する(自動呼出機能)。連絡を受けた者は、また連絡を受けなくても、原告に電話して、プライベート伝言の録音を再生し、相手方のメッセージを聞くことができる。

(六) 音声再生サービス

男性既存会員は、メインメニューから音声再生サービスを選択して、アダルトボイスを内容とする番組を聞くことができる。番組は八件あり、いずれも七、八分の聴取時間を要するアダルトもので、会員の好みにより番組を選択できる。

2  ところで、原告は、本件システムに瑕疵があるとして、本件第一及び第三契約(売買ないし請負契約)の不完全履行を主張するので、以下に検討する。

二1  証拠(甲六、七、六一、乙一五、一六)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、平成七年九月七日及び八日、本件第一及び第二契約に基づき原告事務室に商品を搬入し、被告従業員横宮伸次(以下「横宮」という)にこれらの設置作業(以下「本件設置作業」という)を行わせ、右設置作業終了後には無課金状態(営業時と異なり料金計算をしない状態)で本件システムの正常な作動を確認した。

(二) 被告は、同月一七日及び一八日、本件第三契約に基づき商品を搬入し、原告のテレホンクラブ開業に備え課金状態での運用を可能にするため横宮に右商品を既に設置済みの本件システムへ接続させた(以下「本件接続作業」という)が、右接続作業中に本件システムが正常に作動せず、テレホンクラブの営業開始後には、本件システムには前記原告の主張1記載の障害が生じるようになった。

なお、本件異常作動は本件システムを経由する全通話に発生するものではなく不特定の通話に関して突発的かつ断続的に発生するという態様であった。例えば、平成七年一〇月三日につていは、接続することができる通話とそうでない通話が混在している状況であり、翌四日には時間によって接続ができたりできなかったりという状況であった。

(三) このため、被告は、横宮及び被告従業員千葉大樹に、以下の各日の午前一〇時ころから午後一一時ころまで原告事務室において機器類の入れ替え及びソフトウエアの追加変更等の本件システムの調整作業等を行わせた。

(1) 平成七年一〇月一三日から同月二八日まで(一八、二〇、二四及び二七の各日を除く)

(2) 平成七年一一月五日から同月八日まで

しかし、右調整作業をもってしても、本件異常作動の原因を究明しこれを除去することはできなかった。

2  右のとおり、本件システムに原告主張の本件異常作動が生じていたこと自体は否定できないところである。

しかし、右は、本件異常作動と称する操作上の障害が原告従業員及び山吹の実際の体験に基づいて主張するとおりの内容、発生の経緯、頻度、態様等で本件システムに発生していたことが認められることをいうにとどまるのであって、右各証拠によっても、本件異常作動の内容、発生の経緯、頻度、態様等のより詳細かつ客観的な資料あるいは右異常動作に対して採られた対策、右対策の結果、推定される異常発生の機序等本件異常作動の発生原因を特定するに足りる程度の事情は何ら明らかにされていない。

むしろ、コンピューターを用いた通信システムである本件システムはその操作に相当な専門的知識を有するものであるところ、右障害とされるものの内容に照らし、その原因は後記認定のとおり使用ソフトの不備にあることが推認され、原告主張のごとく、操作の過程で発生する障害を並べ立てただけで直ちに被告に不完全履行があったと断定することは早計というべきである。

3  そこで、さらに、本件全記録から本件異常作動が本件第一及び第三契約の不履行によって生じたものと推認しうるかどうかにつき検討を加える。

(一) 本件システムの設置経緯、本件異常作動なる障害の発生に至るまでの経緯、発生頻度、発生態様、発生後の被告の対応等の前記認定事実によると、本件システムは本件設置作業後の無課金状態下では正常に作動していた反面本件接続作業時及び課金状態下での運用時に本件異常作動が発生していること、本件異常作動は特定の箇所についてのものではなく本件システム全範囲に及びその態様も多岐にわたっていること、個別の機器類取り替え等によっては対処し得ないものであったこと等が窺われ、右障害は本件第一契約の内容である本件設置作業の結果生じたものとは考え難く右設置作業以後の本件接続作業あるいは課金状態での本件システムの運用に起因して発生したこと、本件異常作動はハードウエアたる特定の機器の異常に基づくものではなく本件システムを構成するソフトウエアの欠陥によるものであることがいずれも推認されるというべきである。

(二) すると、本件第一契約の履行は本件異常作動発生前に終了しているのであるから本件第一契約は右作動とは無関係というべきであり、原告の請求のうち本件第一契約の不履行を理由とする部分は理由がなく認められない。

また、本件第三契約の不履行を理由とする原告の請求についても、右契約がいずれもハードウエアたる機器類の売買のみを内容とするものであること(争いのない事実)からすると、本件全記録によっても本件異常作動なる障害の原因が右契約の不履行にあると断定することは到底できないというべきである。

(三)  右のとおり、本件異常作動の原因は本件第一及び第三契約の不履行によるものと推認することもできないのであるから、本件異常作動の発生をもって被告の債務不履行があったとすることは結局できないということになる。

4  よって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

なお、付言するのに、本件システムはソフト面の供給により、正常作動が見込めることが窺われるが、公知のとおり、かかるシステムの利用によるテレホンクラブの営業は近時全国的に条例により禁止されており、もはや右ソフトの改良、供給等は法的に不可能となっているというべきであり、原告のテレホンクラブは結局、いずれ営業の廃止が予定されていたものであって、その救済を法的手続きにより求めることは許されないというべきである。この点からも原告の請求は理由がない。

三  以上のとおりであり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤村啓 裁判官髙橋光雄 裁判官岩渕正樹)

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